- 高齢者が免許返納に踏み切れない理由は?
- 親に免許返納を勧めるときの注意点は?
- 免許返納後、子どもはどんなサポートができる?
このようなお悩みを解決する記事を終活ガイドが書きました。
本業は総合病院(眼科)に勤務しています。医療系FPとして、地方紙で3年間コラムを連載した経験があります。
父がコロナに感染し、突然亡くなったのがきっかけとなり、終活の大切さを痛感。
がんサバイバーの母と終活をはじめるため、終活ガイド1級を取得しました。
「誤ってアクセルを踏み込んでしまい、店舗に突っ込む事故が起きた」
こんなニュースを耳にすると、
「うちの親は大丈夫だろうか…」と、不安な気持ちになることはありませんか?
運転免許の自主返納は、1998年から始まりました。
運転する必要がなくなったり、運転に不安を感じるようになった高齢者が、自分から運転免許を返すことができる制度です。
視力検査をしていると、患者さんと免許証の話をする機会が多いのですが、「免許は返した!」という方も少しずつ増えてきた印象です。
運転免許を自主返納した理由をたずねると「子どもに勧められたから」という方がとても多い。
親に運転を卒業したもらいたいとき、子どものサポートがカギになると感じています。
この記事では、75歳以上の患者さんに聞いた免許返納しない理由、親に話を切り出す前に知っておきたい自主返納の基礎知識をわかりやすく解説します。
免許返納した後の目標は「今までどおりの生活」です!
運転免許を返納しない理由ランキング
眼科で検査をしていると、
- 何度か警察行って、免許通してもらったよ!
- 来月免許更新なんだけど、このメガネで大丈夫かな?
- 今回(の免許更新)で最後にしようと思ってる。
など、運転免許の更新についてお話しする機会が多いんですよね。
これらの気持ちの背景には、車での移動の自由さや、日常の生活の便利さを手放したくない思いがあるように感じています。
そこで、患者さんに直接うかがった、「運転免許を返納しない理由」をランキング形式でまとめてみました。
このランキングを参考に、高齢になった親の気持ちや運転への愛着を感じてもらえたら嬉しいです。
そして、親が今まで通りの生活を送ってもらうための対策も一緒に考えて、代替え案を伝えることも大切です。
一方的に、「運転もうやめたら?」はNGです。
【1位】移動のとき不便を感じるから
高齢者の多くが日常生活で車を利用しています。
運転免許を返納すると、医療機関への通院や趣味の活動、孫の送り迎えなど、日常のあらゆる場面で移動が不便になりそうと感じる方が多いです。
特に地方や公共交通機関が発展していないエリアでは、車は必須の交通手段となっています。
<代替案>
地域によっては、市町村や非営利団体が運営する高齢者向けの送迎サービスやコミュニティバスができます。
また、スマートフォンを利用してタクシーを呼べる時代になりました。
これらを上手に活用することで移動の不便を軽減できます。
雨の日はタクシーがつかまらないので、スマホから手配してあげると喜ばれるかもしれません。
前もって日時が決まっている通院は、親が近くに住んでいれば車で病院まで送って、帰りはタクシーで帰ってきてもらう方法もあります。
私の勤める病院はタクシーが常時待機しているので、この方法を使う患者さんも多いです。
家から通いやすい病院あてに紹介状を書いてほしいという患者さんも増えきました。
【2位】生活必需品が手に入りづらいから
郊外や田舎に住む高齢者は、公共交通の便が悪く、車がないと日常の生活必需品を手に入れることができないと感じています。
比較的便利な場所に住んでいても、お米や飲料水など重いものを買うときには、やはり車がないと困るという方はとても多いです。
しかし、さまざまなサービスを上手く活用すれば、負担を減らすことができます。
<代替案>
最近は宅配サービスが充実しており、行きつけのスーパーで買い物をして家まで届けてもらえます。
また、オンラインショッピングや定期的な食材宅配を活用すれば、店舗まで足を運ぶ手間もありません。
近所の住民や友人との共同購入や、買い物代行サービスも一つの選択肢となるでしょう。
アクエリアスゼロが残り1本。あと、ワイドハイターもよろしく。
早ければ翌日に届けてもらえるので、急に必要になったときでも安心です。
【3位】気をつけて運転すれば大丈夫だから
経験豊富な運転者は、自分の運転スキルに自信を持っています。
十分な注意を払い、安全運転を心がければ事故のリスクは低いと思っている方も少なくありません。
<代替案>
定期的に親の視機能や運転スキルをチェックする機会を作り、客観的に判断します。
「家族が運転卒業をサポート!3ステップ」で詳しく解説しますね!
【4位】外出の機会が減ってしまうから
免許を返納すると外出したり、人と会って話をする機会が少なくなるため、社会的なつながりが薄れてしまうと心配しています。
交流を一気に断ち切ってしまいたくないですもんね。
<代替案>
徒歩や公共交通機関などで行けるコミュニティーセンターなどを探し、情報を共有しておきます。
日常生活で新たな趣味や地域の活動に参加できるようになれば、免許返納後の生活がスムーズになります。
【5位】喪失感を感じるから
免許証を返納するということは、運転ができなくなるということです。
長い間車を運転してきた人は、それが日常の一部となっており、免許を返納することで大きく生活スタイルを変えたくないと思っています。
年齢を重ねてくると、心身機能の変化によりできないことが増えてきます。
さらに、大切な家族や友人を失って、ぽっかりと心に穴があいてしまうこともあるでしょう。
これらの喪失感を感じながら、さらに自分の意思で「できなくなること」を決断しなければなりません。
<代替案>
周りで自主返納した人を探し、経験者の生の声を聴いてもらうのがおすすめです。
その辛さは体験した人にしかわからないですよね。
【6位】身分証明書がなくなるから
昔は証明書といえば、運転免許証とパスポートが定番でしたが、現在は身分証明書のバリエーションも増えました。
<代替案>
運転免許証を返納すると、「運転経歴証明書」の交付が受けられます。
また、マイナンバーカードを持っていれば、身分証明書として利用できます。
どちらかを持っていれば、この問題はクリアできますね。
運転経歴証明書とは?
公的な身分証明書
運転経歴証明書とは、運転免許を返納した日からさかのぼって、5年間の運転に関する経歴を証明するものです。
免許証が失効して5年以内、または自主返納した日から5年以内であれば交付を受けられます。
運転免許証を返納した後、公的な身分証明書として使用することができます。
- 運転免許証と同じサイズ
- 住所・氏名・生年月日・自主返納が受理された日などが記載される
- 交付申請には、交付手数料1,100円と証明写真(縦3cm×横2.4cm)が必要
- 免許停止・取り消しを受けた、再試験を受ける必要があるなど、基準に該当する人は交付を受けらない
- 有効期限も更新制度もない
免許返納と同時に申請をするとスムーズです。
運転経歴証明書交付済シール
令和2年4月1日から警察署で申請すれば、運転経歴証明書が交付済であることを証明するシールが交付されるようになりました。
このシールをマイナンバーカードのケースに貼れば、証明書として使えます。
わざわざ運転経歴証明書を持ち歩く必要がなくなりました。
出典:神奈川県高齢者運転免許自主返納サポート
マイナンバーカードに直接貼らないようにしてくださいね。
高齢者の運転免許自主返納3つのメリット
さまざまな特典がもらえる
多くの自治体では、高齢者が自分から免許を返納することを奨励するための特典を用意しています。
たとえば、公共交通機関の利用時に割引が適用されるシルバーパスや、タクシー券などがあります。
これらの特典を活用すれば、生活する上での不便を最小限に抑えることができます。
各自治体で特典が異なるため、最新の情報を確認してくださいね。
北海道地方
東北地方
関東地方
中部地方
関西地方
中国地方
四国地方
九州・沖縄地方
交通事故のリスクがなくなる
高齢者は視力や反応速度の低下が原因となり、交通事故のリスクが高まることがわかっています。
令和元年の75歳以上の免許保有者数は平成21年と比べて1.8倍と、増加を続けています。(出典:内閣府「令和元年 交通事故の状況及び「交通安全施策の現況」)
そして高齢者ドライバーによる、ブレーキとアクセルの踏み間違い事故は、75歳未満が0.5%に過ぎないのに対し、75歳以上は7.0%と明らかに高くなっています。
免許を自主返納することで、このような交通事故のリスクがなくなるため、本人だけでなく家族を安心させることができます。
眼科で検査をしていると、「この人、運転してるの?」と思ってしまう高齢ドライバーがそこそこいます。
車の維持費がかからない
車の維持にはガソリン費や自動車保険料、車検代、定期的なメンテナンスなど、維持費用が発生します。
免許を返納し、車を手放すと、これらの費用がかからなくなるので、他の趣味やレジャーに使うことができます。
1年間にどのくらいコストがかかっているか計算してみるのもいいですね。
運転免許返納手続きの方法と注意点
本人の意思で有効期限が残っている運転免許証を返納するのが自主返納です。
正式には、「申請による免許取消」といいます。
自主返納の申請件数は年々増加し、2021年は51万7040件で、その半数が75歳以上の方です。(出典:警察庁「運転免許統計」)
「運転に自信がなくなった」「家族から運転をしないよう勧められた」などの理由で免許を返納しています。
自主返納をすると、その時点から自動車などの運転はできません。
返納手続きは予約の必要なし
面倒そうな返納手続きのポイントは3つ。意外と簡単です!
- 居住地域の警察署か各運転免許免許センターに行く
- 予約の必要なし
- 手数料はかからない
警察署までは、自分で運転していかないようにしてくださいね。
やむを得ないときは代理申請も可能
返納手続きは原則、本人による申請です。
ただし、入院中や老人ホームに入所するなど、やむを得ない事情があるとき、本人の意思が確認できれば、親族などによる代理申請も認められています。
返納手続きで用意するもの
■本人の場合
- 返納する運転免許証
運転免許証が失効していても、免許の返納はできます。
■代理申請の場合
- 返納する運転免許証
- 代理人の身分証明書
- 申請者本人と代理人の関係を示す書類(住民票の写しなど)
- 委任状、確認書
家族が運転卒業をサポート!
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切り出し方がとても難しい「運転卒業」は、時間をかけて、段階を踏んですすめるのが正解です。
運転スキルを客観的に確認
「あぶない運転」をしているという自覚のない親に、いきなり免許返納を切り出したら、反発されるのは当然のことかもしれません。
「運転免許証自主返納制度等に関する世論調査(平成29年11月)」によると、どのようなときに返納しようと思いますか?の問いに
70歳以上では、約2人に1人が「自分の身体能力の低下を感じたとき」と答えています。
しかし、年齢が高くなるほど、自分の運転の危険度に気づかず、たいてい気づくのは同乗している家族です。
そこで、親がどんな運転をしているか同乗して確認します。
- 右折左折のウインカーを間違えたり、出し忘れる
- カーブを曲がれないことがある
- 歩行者、障害物、他の車に注意がいかない
- 車庫入れの時、塀や壁をこする
- 信号や標識を無視して通行することがある
- 右折左折時に、歩行者や対向車などを見落とす
などの症状が出ていたら、要注意!(出典:政府広報オンライン)
また、離れて暮らしている場合、ドライブレコーダーで録画したものを一緒に確認するのもよいでしょう。
バイクを運転している場合、バイク用のドライブレコーダをつければ確認できます。
そして、一緒に映像を確認して、親の運転能力の自己判断≠客観的な判断であることを自覚してもらいます。
いずれの方法も、親に「あぶない運転」をしていることに気づいてもらうのが目的です。
この時はそれ以上突っ込まないように!
運転スキルと一緒に、認知機能をチェックしたいときはこちらがおすすめ。
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補償運転のルールづくり
話の切り出し方が難しいといわれる「免許返納」。
親の意見を聞かずに返納ありきで話を切り出すと、親子げんかに発展してしまうことも少なくありません。
そこで親子で話し合い、まずは「補償運転」のルールを決めるのがおすすめです。
「補償運転」とは、加齢に伴う身体機能の変化に応じて、自分の体調や天候、道路状況を考えて安全に運転することをいいます。
たとえば、
- 夜の運転は避け、昼間のみ運転する
- 雨の日は避け、晴れの日だけにする
- 運転は近所の買い物と通院だけにする
- 高速道路は運転しない
- 体調の悪い日は運転しない
患者さんに「補償運転」のアドバイスをすると、すんなり受け入れてくれることが多いです。
「車なし生活」を疑似体験
1週間などの期間を決めて、免許返納後の生活をイメージしてもらいます。
たとえば、
- コンビニやスーパーが近くにあるなら、散歩がてら買い物に行ってみる
- 電車やバスに乗って、一緒におでかけしてみる
- 病院まで車で送ってあげる
- スーパーの宅配サービスを利用してみる
これらを一緒に体験することは、子どもの立場でどのようなサポートをするべきかを知るよい機会にもなります。
定期的に疑似体験を繰り返すうちに、困りごとの解決策が見えてきて、「車がなくても、意外と大丈夫そう」という言葉が聴けるかもしれません。
患者さんたちの間でよく聞く話は、慣れないバス利用でのちょっとした失敗談。
一つ前のバス停で下りてしまったり、行先をしっかり確認せずに乗ったバスが、予定とは違う方向に進んでしまった…などなど。
しかし、そうした失敗も徐々に減り、今ではちょっと不便な生活にも慣れてきたそうです。
まとめ
- 親が今まで通りの生活をするための代替え案を伝えてみる
- 親の運転能力の自己判断≠客観的な判断であることを自覚してもらう
- 免許返納を決意したら、新しい生活の始まりをサポートする
高齢の親が安全に運転する能力が低下している場合や事故のリスクが高まっている場合、運転をやめさせたいと考える子供も多いでしょう。
しかし、親が危険な運転をしていても、それを理由に法的に免許返納を強制することはできません。
そこで、まずは親の認知機能、運転能力を客観的に判断し、安全で安心した生活を送れるための方法を一緒に考えることが重要です。
もし、親が運転をやめることを決心した場合、その後のサポートが欠かせません。
親の運転卒業への道のりは決して簡単ではなく、子供としての忍耐と理解が求められます。
継続的なコミュニケーションを通じて親の気持ちを尊重し、彼らの不安や懸念を理解することが、新しい生活の始まりへの第一歩となります。
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